シニア世代の相談2|法定後見制度を利用するタイミング
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法定後見制度を利用するタイミングについて考える
すでに認知症になってしまった時や判断能力が低下した人の財産管理や身上監護を、本人に代わって支援するのが成年後見制度の「法定後見制度」です。
「認知症になったら成年後見制度を利用する」と思っている人がいるかもしれません。しかし、シニア世代の相談では、タイミングによっては成年後見制度を利用しない方が相談者にとってよいと思われるケースもあります。
成年後見制度の利用に関する相談を受ける場合、相談者に不利益を与えないよう配慮することは必要ですが、利用することで相談者の身内など相談者以外の人も含めてどのようなことが起きるかを考え、プラス面、マイナス面を認識して、アドバイスできるとよいものです。
今回は、2つのケースをもとに、法定後見制度を利用するタイミングについて考えてみましょう。
法定後見制度の利用を再検討するとよいケース
認知症の母親と長女が同居、養子の長男が別居しているとします。母親と長女は長男と不仲です。
それは、親の面倒をみるということで養子の長男が父から生前贈与を受けたのですが、父親の相続後、長男が姿を消してしまったためです。
すでに15年ほど前から養子の長男とは交流がないため、長男は、母親が認知症になっていることを知りません。
また、長女は、母親が長男の名前や話題に触れると感情が不安定になることがあるため、なるべく長男とのかかわりを避けたいと思っています。このような場合に、長女が法定後見制度を利用しようとするとどうなるでしょうか。
成年後見を申立てる手順は、次の通りです。
1.申立てに必要な準備をします。
申立てに必要な書類(戸籍謄本、住民票、診断書など)の収集、申立書類(申立書、申立事情説明書、親族関係図など)を作成します。
2.家庭裁判所に申立てをします。
申立てをすると、即日面接(申立人調査、後見人等候補者調査など)が行われます。
3.家庭裁判所が審理をします。
申立て内容などについて、直接本人から意見を聞いたり、親族へ申立ての概要や成年後見人等候補者の氏名などを伝え意向を照会したりします。また、本人の判断能力について、医学的に判定するための鑑定なども行われます。
4.家庭裁判所が後見等の開始の審判をします。
成年後見人等が選任されます。
5.審判が確定し、法定後見が始まります。
このように、成年後見の申立てをすると、家庭裁判所が親族(法定相続人)へ意向照会する場合があります。
このケースでは、母親が認知症で長女が後見人候補者になることについて、長男に意向照会される可能性があります。そのため、これを機会に長男とのかかわりができてしまう可能性も考えられます。
このようなケースの相談を受けた場合、長女にこのタイミングで法定後見制度を利用した際のプラス面、マイナス面を伝え、今すぐ利用するとよいかどうかを長女自身に判断してもらう必要があります。
法定後見制度の利用をするとよいケース
成年後見の申立て動機には、本人名義の不動産を売却して介護施設入居費にしたいという「財産管理処分」、介護施設に入所させるなどの「身上監護」、相続人である認知症者が行わなければならない「遺産分割協議」などがあります。
上記のような動機とは別に、あえて法定後見制度を利用した方がよいというケースもあります。
前述の家族の例で、今度は長男が相談に来たとします。
長女が母親の面倒をみるからと母親の状態や財産管理状況を教えようせず、財産を使い込んでいるようだ、という相談を受けた場合、長男の利益を考えれば前述と反対に成年後見の申立てをする、というアドバスが考えられます。
長男が母親のために成年後見の申立てをすると、家庭裁判所は長女に意向照会をします。
長女が後見人に兄がなることを拒否する、あるいは後見申立て自体を不服としても、家庭裁判所は本人のために審査をしているのですから、最終的には家庭裁判所の審判に任せることになります。
この場合、長女が反対しているため長男ではなく第三者の後見人が選任されるかもしれません。選任された後見人等は、母親の財産管理を行うと共に、目録や収支状況を家庭裁判所へ報告しますので、長女は母親の財産を動かすことはできなくなります。
このように、身内が認知症の親の財産を明らかに使いこんでいる場合や、財産管理をしているが開示しようとしない場合には、あえて法定後見制度を利用した方がよいケースもあります。
成年後見制度は本人のため
成年後見制度は、認知症になってしまった本人の意思を尊重し、社会で普通に暮らしていけるように支援や保護をしたり、利用者の法律行為を代理したりする制度です。
第一に考えるのは「本人のため」です。成年後見制度を利用することで選挙権がなくなってしまったり、医師免許などの資格がなくなってしまったりすることもあります。
そのため、身内の都合だけで成年後見制度を利用するかどうかを決めることには注意が必要でしょう。