相続・終活セミナー講師|明石久美

シニア世代の相談1|成年後見制度アドバイスの注意点

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成年後見制度利用前に必要な情報を相談者に伝えておく

「久しぶりに会った母が認知症になっていたのです。電話で話している限りではまったく気付きませんでした」。相談者からこのような話しを聞くことがあります。

 

認知症は、本人が気付いていないケースもあります。そのため、電話で話している家族も本人の応対が普通なため、まさか認知症になっているとは思いもせず、会って初めて認知症になっていたことに気付く場合があります。

 

気付いた時には症状が進行していて、悪質商法の被害にあっていたり、財産の管理や身辺のことがスムーズに行えなくなっていたりすることもあります。

 

このような状態で子から、「福祉の専門家から後見人をつける必要があると言われたのだけれど、どうしたらよいか」などと相談されたらどうでしょう。

 

実際には、必ずしも「認知症=成年後見制度の利用」とは限りません。まずは制度を利用する前に、必要な情報を相談者に伝えておく必要があります。

 

今回は、高齢の親のために、成年後見制度の利用を検討しているシニア相談において、伝えておきたい項目を整理します。

事前準備ができているか

成年後見制度には、あらかじめ信頼できる人と契約をしておく「任意後見制度」と、すでに認知症になってしまっている時に利用する「法定後見制度」があります。

 

配偶者や頼れる親族がいない場合、任意後見契約で事前準備をしておくケースはありますが、頼れる親族がいる場合、その時になったら何とかなるだろう(してくれるだろう)と思っており、契約などで事前準備をせずにいる人が大半です。

 

しかし、本人の判断力が低下した場合、配偶者や子が後見人等(後見人・保佐人・補助人)になってくれるとは限りません。

 

例えば、距離的に離れているためどちらかの居住地に移転しなければならない、後見活動によって生活スタイルを変えなければならないなど、頼る相手に負担を強いることもあります。

 

また、家族以外の親族は、遠縁・疎遠・不仲などで頼みにくいという状況も考えられます。

 

本来、あらゆる場合を想定してどのような準備が必要か事前に検討しておくとよいのですが、家族がいる場合はたいてい自分が認知症になったときの準備をしておくケースは少ないものです。

 

しかし、もし認知症になってしまったときには誰に後見人等になってもらう予定なのか、できれば家族と一緒に考えておくと安心です。

後見人等の職務

後見人等の職務は主に「財産管理」と「身上監護(生活・医療・介護などに関する契約や手続き)」です。どちらも「法律行為の代理」などで、介護や食事の世話は職務の対象外です。

 

家族が後見人等をする場合には課題があります。例えば、第三者なら職務として線引きできますが、家族の場合は「後見人等の職務に食事の世話などは入っていないため、ヘルパーを手配しておきます」とは言えません。

 

つまり、家族として買い出しや炊事洗濯なども行うものです。

 

認知症の人の世話は大変なため、進んでやりたがる人は少ないでしょう。そのため、施設に入所していない場合、家族が後見人等になると結果的にすべての世話をその後見人等がすることになってしまいがちです。

 

後見人等を検討する際には、このようなことも十分認識した上で親族の協力が得られるよう、根回しなども必要だということです。

後見人等の報酬

法定後見の場合、最初に報酬が提示された上で後見人が選ばれるわけではありません。

 

1年間職務を行い、家庭裁判所に報告書を提出する際に「報酬付与の申立て」を行うことで、家庭裁判所が被後見人(本人)の財産額に応じて報酬を決めるもののため、後見人に選ばれるときには報酬がいくらになるかわかりません。

 

親族の場合は「無報酬」になる可能性もあります(交通費などの実費はもらえます)。

 

実際には、親の財産管理などを行うために、報酬や交通費をもらう行為を心苦しいと思う後見人等や、後見人等が報酬をもらうのを不服に思う親族も中にはいます。

 

報酬をもらうか否かは後見人等になる親族の考え方次第ですが、アドバイスする側としては、専門家が後見人等になる場合には報酬がかかること、家庭裁判所が公表している報酬の目安などを参考情報として伝えておくことも大切です。

後見人候補者になる前に

法定後見の申立てをする時には、成年後見制度について次のことを理解してもらうようにしましょう。

 

  • 本人のために本人の財産を使用する制度であること。
  • 後見人等の職務の範囲は、主に法律行為を行うこと。
  • 介護や家事などの世話は、後見人等の職務でないこと。
  • 交通費などの実費は経費としてもらえること。
  • 財産管理を行う上で不正行為がないことを証明するため、収支を開示する必要があること。

 

特に親族が後見人等になる場合は、その後見人等だけに介護や家事などの負担が集中しないよう、事前に「後見人の職務」について親族の理解を得ておく必要があります。

 

また、後見人等に選任されたら、原則辞任はできません。

 

辞任ができる場合は、後見人自身が認知症になってしまう、転勤等で通うことが困難になってしまうなど正当な理由があり、家庭裁判所の許可がなければなりません。

 

大変だからといって辞められないことを、後見人等になる人は認識しておく必要があります。

親との話し合い

相談者のなかには、後見人等として被後見人のために職務以外の支援もしてきた場合、遺産を多めにもらいたいと思う人もいるでしょう。しかし、いくら頑張ったと主張しても、遺言書がなければそれは難しいものです。

 

このように、相談者には成年後見制度の概要だけではなく、自分が後見人等になると考えているかどうか、その際の注意点なども伝えられるとよいでしょう。

この記事を書いた人

明石久美

千葉県松戸市在住。セミナー講師歴17年。相続・終活コンサルタント、特定行政書士。相続専門の行政書士として実務も行っており、葬儀や墓など供養業界にも詳しいことから、終活や相続に関する一般向けセミナーや企業研修を全国で行っている。 また、テレビやラジオの出演、新聞・雑誌等へのコラム執筆や監修、銀行や互助会(葬祭)向けの教材、著書など多数ある。   ◆相続相談、遺言書作成、おひとりさま準備、相続手続きは、『 明石行政書士事務所 』 へ

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